金利と中間選挙は織り込み済み、株価上放れのサインを見逃すな<村松一之・米国株投資の羅針盤>
2026-09-16 10:30:00
◆堅調、米国株を支える三つの要因
米国株式市場は底堅いのだろうか。それとも、上値が重いと評価すべきなのだろうか。私の結論は、少なくとも現段階では「底堅い」である。金利上昇や中間選挙、利上げ観測、"AI(人工知能)人類滅亡論"などの不透明要因は存在するが、企業業績、AIインフラ投資、米国経済と信用市場の安定が、それらの悪材料を吸収している。ただし、この均衡を崩しかねない本質的なリスクもある。それが、長期化する原油高、すなわち"第2次エネルギーショック"である。
現在の米国株を支える要因は三つある。一つは、極めて好調な企業業績だ。市場集計ベースでは、S&P500種指数構成銘柄の平均EPS(1株当たり純利益)成長率は2026年第1四半期(1-3月期)が前年同期比29.4%増、第2四半期(4-6月期)が53.4%増となり、通年でも35%程度の増益が見込まれている。4月の段階では通年で19%増と予想されていたが、イラン戦争が長期化する中でも、米国企業の業績上方修正は継続している。
27年のS&P500のEPSについては、420ドル前後が予想されている。仮にEPSを420ドルとすれば、PER(株価収益率)18倍で7560ポイント、19倍で7980ポイント、20倍で8400ポイントとなる。今後、景気減速や原油高によってEPSが下方修正される可能性もあれば、長期金利の上昇によってPERが切り下がる可能性もある。それでも現段階では、強い利益成長が相場の土台となり、様々な悪材料を吸収していると言える。
二つ目は、AIインフラ革命に対する信頼度の向上である。今回の米国企業決算では、AI投資やAI導入によって売上高、顧客単価、利用量、生産性が伸びている事例が数多く確認された。エヌビディアの決算内容も非常に強く、市場を安心させた。またソフトウエア株は、生成AIによって既存サービスが代替される「SaaSの死」への懸念から大きく下落していた。しかし実際には、ソフトウエア企業がAIを製品に組み込むことで、顧客単価の引き上げや新規需要の開拓に成功し、むしろ成長を加速させるケースが増えている。そうした状況を受け、S&P500ソフトウエアサービス指数は、4月の安値からすでに32%も上昇している堅調ぶりだ。
三つ目は、米国経済と金融市場の安定である。米国の労働市場は、移民減少や高齢化などによる構造変化はあるものの健全さを維持している。個人消費も富裕層を中心に底堅さを保っている。インフレは高止まりしているものの、基調的なインフレが大きく上昇する状況ではない。米国経済は、AI関連投資やインフラ投資にけん引され、第3四半期の実質GDP(国内総生産)についても年率4%台の強い成長が見込まれている。
また、資本市場では企業による旺盛な社債発行が続いているが、投資適格社債の信用スプレッドは約80ベーシス・ポイント(bp)程度と歴史的な低水準にある。大手格付け機関S&Pによる米国企業(投資適格級)の9月までの今年の格上げ数は、格下げ数の7倍を上回っており、企業部門の財務状態も安定している。高金利の下でも信用市場に深刻なストレスが生じていないことは、株式市場の底堅さを考えるうえで重要だ。
◆米国金利上昇は堅調なファンダメンタルズによるもの
一方、米国株の上値を抑える材料として、まず挙げられるのが長期金利の上昇だ。足元では米国の財政悪化や国債消化への懸念が、市場の焦点として急速に浮上している。しかし米国財政の悪化は以前から議会予算局などが示してきた問題であり、突然発生したものではない。
例えば、連邦債務が40兆ドルを超えたことが繰り返し報道されているが、現在の法定債務上限が41.1兆ドルであり、2027年前半ごろに上限へ到達する可能性があることは、以前から想定されてきた。米国財政が足元で急に悪化したわけではないのだ。むしろ、私の感覚では、「財政悪化への懸念が金利上昇を引き起こした」というより、「金利が高い水準まで上昇したため、市場が財政悪化リスクを改めて意識した」という順序である。
さらに言えば、米国の金利は上昇しているものの、投資家が米国債に要求するタームプレミアム(期間に応じた上乗せ金利)は安定推移し、足元ではやや低下している。米国10年金利が23年の夏場から10月に5%近辺に達した際には、タームプレミアムが3カ月間で140bpも急上昇する「悪い金利上昇」であった。しかし、今回の10年金利の5%接近は、米国経済の強さ、インフレの高止まり、政策金利が長く高水準に維持されることを織り込んだファンダメンタルズに沿うものだろう。
原油価格が1バレル=100ドルを超えるまでは、長期金利が上昇するなかでも米国株は大きく崩れなかった。これは米国経済と企業利益が、高い金利水準に相応の耐性を持っていることを示している。問題は金利の絶対水準ではなく、原油高などのノイズにより、債券市場のボラティリティ(変動率)が急上昇することである。
◆すでに市場に織り込まれている中間選挙結果と利上げ回数
中間選挙を巡る不透明感も株価の上値を抑える材料とされている。歴史的に、中間選挙では大統領の所属政党が下院で平均25議席程度を失う傾向があり、1950年以降、与党が下院の議席を増やしたのは2回しかない。現在の下院は共和党と民主党の議席数が拮抗しているが、トランプ政権の支持率が大きく低下していることから、市場は早い段階から民主党による下院奪還を想定してきた。
賭け市場の9月12日時点の予測では、民主党が上下両院を奪還する確率が約50%、共和党が上院を維持し、民主党が下院を奪還する確率が約37%となっている。予測値は日々変動するが、民主党が少なくとも下院を奪還するシナリオは、87%の高い確率で織り込まれている。選挙結果が極端なサプライズとならなければ、中間選挙の通過は、むしろ不透明感の後退として好感される可能性がある。また、米国株式市場においては、「ねじれ議会」はバランスが取られ、極端な政策が打てなくなることから、良好なパフォーマンスになることが多い。
今週のFOMC(米連邦公開市場委員会)を巡っても、市場はすでに相当程度の利上げを織り込んでいる。直近の雇用統計やCPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)は利上げ確率を高めたものの、現在は2022年のようにインフレ率が9%に達し、FRB(米連邦準備制度理事会)が異例のペースで利上げを続けなければならない局面ではない。
市場では、来年9月までに4回弱の利上げを織り込んでいるが、私は過剰だと考えている。米国2年債利回りが4.6%程度まで上昇しているが、これは24年9月前の水準だ。当時のフェデラル・ファンド(FF)金利は5.5%であったことを鑑みても、すでに短期金利は相当に前のめりで利上げを織り込んでおり、今後は景気やインフレ次第で織り込みの修正が起こる可能性がある。だが、このように、株式市場の上値を抑制している材料の多くが、すでに市場に織り込まれている点は重要だ。
◆最大のリスクは"第2次エネルギーショック"
これに対し、本当に深刻なリスクへ発展しかねないのが、エネルギー価格上昇の第2波である。イラン戦争直後の上昇を第1波とすれば、足元では新たな上昇局面が起こっている。市場にとって危険なのは、原油価格が一時的に120~130ドルへ急騰することよりも、100~110ドル前後の高値が数カ月続くことである。
第1波では、中国が国内在庫を取り崩し、海上原油輸入を戦争前より日量400万バレル以上削減したと推計されている。この需要減少が、中東からの供給減少を吸収する巨大な緩衝材となった。しかし第2波では、中国の製油所が在庫補充と操業維持のため、再び原油を買い始めている。仮に海上輸入が日量900万バレル近くまで回復すれば、第1波で価格を抑えた中国が、今度は価格を押し上げる側へ回る可能性がある。
供給面では、従来なら危機時に増産する「最後の供給者」であったサウジアラビア自身が、供給制約の当事者になっている。東側のホルムズ海峡、中央部の東西パイプライン、西側の紅海・バベルマンデブ海峡という主要経路が同時に不安定化しているからだ。
◆原油100ドル超の「滞在時間」が最大の問題
100ドルを超える原油高が短期間で終われば、市場は一過性の地政学リスクとして処理できる。しかし数カ月続けば、原油高は単なる商品市場の問題から、インフレ、金利、企業業績、個人消費、信用市場を同時に悪化させる第2次エネルギーショックへと変質する。金利上昇のみならば、企業業績の強さによって吸収できる。しかし原油高が長期化し、企業利益まで悪化すれば、米国株の底堅さを支えてきた前提そのものが崩れる可能性がある。
ホルムズ海峡の安全な運航再開、イラン戦争の終結は不透明感が強いが、先のBRICS首脳会議では、中国がグローバルサウスと連携して、中東和平の仲介者になる用意があることを表明している。こうした中で、今月の24日に開催される予定の米中首脳会談は、大きなターニングポイントになる可能性がある。西側が連携できずに戦争が長期化するなかで、その空白をグローバルサウスが埋め、世界経済に影響を及ぼす問題の解決に動き始めた点は、大きな国際社会の構造変化を感じさせるものだ。
さて、現段階の米国株は、企業業績、AIインフラ投資、堅調な米国経済、安定した信用市場に支えられている。従って、評価としては「上値が重い」よりも「底堅い」が適切である。ただし、その底堅さは無条件ではない。市場参加者がこれまで取ってきた「企業業績に明確な影響が出るまでは原油高を無視する」という姿勢を、今後も維持できるのか。原油高と金利上昇の連鎖は止まるのか。米国株の本当の耐久力が、いま試されようとしている。
ただし重要なことは、今の米国株式市場は、相応に悪材料を織り込みながら、現在の水準にあることだ。逆に悪材料のリスクが抑制されたり、顕在化しないのであれば、それだけで株式市場にとって上値を追う材料になる。過度に楽観にも悲観にも偏らずに、冷静に市場の状況を観察することが重要な局面だろう。
【著者】
村松一之(むらまつ・かずゆき)
和キャピタル取締役運用本部部長/フォーライクス代表
1973年生まれ、慶應義塾大学卒業後、1996年静岡銀行入行。支店勤務を経て、資金証券部に配属。その後、米ニューヨーク支店勤務など主に市場関連業務に従事。2017年8月、和キャピタルに入社、21年3月より現職。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」でレギュラーコメンテーターを務めるほか、各メディアで市場分析のプロとしてのオピニオンを展開中。
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