トルコの投資環境について 利付債[トルコ・リラ建]

直近のトルコ・リラの下落と今後の見通しについて(2018年9月)

2016年7月のトルコ・クーデター未遂事件に関わったとされる米国人牧師の拘束問題を巡り、対米関係が悪化したことをきっかけにトルコ・リラは急落しました。特に2018年8月中旬には瞬間的にトルコ・リラ/円は15円台となり、前月7月末の水準から約30%の大幅下落となりました。

根本的な要因としては、6月の大統領選および総選挙のダブル選挙で勝利して強権を握ったエルドアン大統領が、通貨・経済の安定化のために必要な経常収支改善を目指した財政引き締めや構造改革に積極的でないことに加えて、利下げを求めるなどして中央銀行の独立性が損なわれるとの懸念が強まったことにあると見られます。また、高水準の対外債務なども重石となっています。

しかしながら、足元では変化の兆しも見えはじめています。

トルコ中央銀行は、2018年9月13日に政策金利である1週間物レポレートを17.75%から24.00%へと6.25%引き上げました。エルドアン大統領が、トルコ中銀が政策金利を発表する2時間ほど前に政策金利を引き下げるべきだと発言するなど、トルコ中銀の独立性は疑問視されていましたが、予想以上の大幅利上げに踏み切りました。引き続きエルドアン大統領による政治的圧力に屈せず、トルコ中銀がインフレ抑制のため金融引き締め姿勢を維持できるかどうか、10月25日に開催される次回の金融政策委員会が注目されます。

また、足元の通貨安が経常収支の改善に影響を与える面もあります。
トルコでは観光収支の黒字の増加を背景に、サービス収支の回復基調が続いています。観光客数は前年同月比で増加基調が続いており、2018 年1 月から7 月までで2164 万人(前年同期比+24.9%)の外国人観光客がトルコを訪れました。貿易統計においても、7 月の輸出は前年同月比で+11.6%となった一方で、輸入は▲6.7%となり、貿易収支に改善の兆しも見られます。依然として経常赤字は巨額ですが、通貨安の効果などにより緩やかな改善が続いていくことが見込まれます。

一方で、トルコの実体経済は安定しています。
昨年の前年比7%超の経済成長からの反動や足元の通貨安の重荷はあるものの、2018年も3%程度のプラス成長は確保する見通しです。また、自動車や観光など国際的な競争力を持つ産業があることや人口増加も続くことから、長期的には成長余力は大きいと考えられます。

トルコ経済のプラス要因

トルコのGDP成長率(前年比)
出所:IMF
トルコの人口構成(2015年と2030年)
出所:国連(World Population Prospects・2017年)
トルコの地理的位置
世界の観光客数ランキング(2017年)
順位 国名 観光客数
1 フランス 8,691万人 
2 スペイン 8,178万人 
3 米国 7,590万人 
4 中国 6,070万人 
5 イタリア 5,825万人 
6 メキシコ 3,929万人 
7 イギリス 3,765万人 
8 トルコ 3,760万人 
9 ドイツ 3,745万人 
10 タイ 3,538万人 
11 オーストリア 2,946万人 
12 日本 2,869万人 
出所:世界観光機関

トルコ経済のマイナス要因

関係が悪化する米国とトルコ

米国   トルコ
イスラム教指導者の身柄を引き渡さず
2016年7月のクーデタ未遂の首謀者とされる
イスラム教指導者の身柄引き渡しを要求
シリア内戦でクルド人勢力と協力
クルド人勢力をテロリストと見て攻撃を実施
イスラエル支援
イスラエルを「テロ国家」と表現
トルコで拘束の米牧師の解放要求
解放要求を拒否
関係悪化
トルコの2官僚に制裁
鉄鋼・アルミニウムへの関税引き上げ
トルコの政策金利・インフレ率の推移
出所:トルコ統計局、トルコ中央銀行
※ 政策金利の指標は、2017年1月23日までは1週間レポ金利、その後2018年5月31日まで後期流動性貸出金利、2018年6月1日以降は再び1週間レポ金利を使用。

為替レートは歴史的安値圏

トルコ・リラは、高インフレ率、経常赤字、エルドアン大統領の中央銀行への圧力などが嫌気され、新興国通貨の中でも下落率が大きくなっています。特に8月に入り、トルコで拘束中の米国人牧師の開放問題を巡り米国との関係が悪化したことなどから大きく下落しました。

2018年1月以降の対円での推移(2017年末=100)
出所:Thomson Reutersのデータより弊社作成

2015年以降の出来事

15年6月 総選挙でエルドアン率いる与党が過半数割れ
15年7月 イスラム国への空爆開始
15年10月 トルコの首都アンカラでテロが発生
15年11月 トルコの領空を侵犯したとしてロシア空軍機を撃墜
16年3月 トルコの首都アンカラでテロが発生
16年7月 クーデター未遂事件
16年9月 ムーディーズ社がトルコ長期債の格付けを引き下げ
17年1月 フィッチ社がトルコ長期債の格付けを引き下げ
17年4月 トルコ国民投票の実施 (大統領の権限強化を柱とした憲法改正案が承認)
17年6月 ロシア、トルコに対するロシア人渡航制限を解除
市場予想を大幅に上回るGDP成長率(1−3月期)発表
17年9月 4−6月期GDP成長率は+5.1%(前年同期比)と発表 2四半期続けて+5%成長を達成
17年10月 トルコ・アメリカ両国がビザの発給を停止
17年12月 米国とトルコがビザ発給業務完全再開
18年1月 トルコのエルドアン大統領は20日敵対するシリアのクルド人勢力、民主連合等(PYD)に対する軍事作戦を始めたと宣言
18年2月 米国務長官 トルコ大統領と会談 関係正常化で合意
18年3月 2017年のGDP成長率+7.4%(前年比)と発表
18年4月 シリア内戦 終結見据え協議 露、トルコ、イラン3首脳
来年11月実施予定だった大統領選と総選挙を18年6月に前倒しすると表明
18年5月 トルコ中央銀行が金融政策の枠組みの簡素化を発表(1週間物レポレートを現状の後期流動性窓口貸出金利と同水準に設定)
18年6月 政策金利(1週間レポレート)を1.25%引き上げ、17.75%に設定
フィッチ社がトルコ長期債の格付けを引き下げ
エルドアン大統領が再選、エルドアン率いる与党が議席の過半数を獲得
18年8月 米国、米国人牧師の長期拘束を理由にトルコ閣僚に経済制裁
18年9月 政策金利(1週間レポレート)を6.25%引き上げ、24.00%に設定
4-6月期GDP成長率は+5.2%(前年同月比)と発表

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